切迫流産
おへそ(神闕というツボ)に温灸
切迫流産に関する産科の資料を持ち合わせていないので、過去の状況と比較出来ません。しかし、妊婦を対象にした水泳教室のコーチが指摘するには、切迫流産の恐れから、ドクターストップのかかる妊婦さんが近頃驚くほど多くなってきたと言います。
私自身も妊婦さんには問診の時に、切迫流産の有無を問うことにしていますが、その多さに現代女性の体質の悪化を思い知らされています。
それでは、切迫流産を防ぐにはどの様な処置が適切なのでしょうか。妊娠・出産には、確かに人知の及ばない領域がまだまだ多い現実はあります。
けれども、誕生した小さい生命の胎児をどのように守ってあげる事が適切なのか、切迫流産が増加している現代では重要な課題の一つです。
切迫流産を出来る限り防ぐ為には、懐妊前からの体調管理が最も大切な事ですが、懐妊が判った時からの知恵を紹介しましょう。
私は次の三つの方法により極めて良い結果を得ています。
おへそ(鍼灸医学では神闕というツボ)に温灸を施す
妊娠初期は流産し易い時期ですから治療と言えども、体に優しい治療方法を選択します。おへその温灸は、刺激は穏やかであっても効果は大きいのです。その受療感は、 妊婦さんにより微妙に違うのは当然でありますが、体調の比較的良いときはお腹を中心に暖まり、疲労感が強い時はお腹から腰まで帯状に暖まるという感想を妊婦さんたちは述べています。
おへそについてはもう少し私見を述べてみます。
私は現代医学の輝かしい業績を充分認識しつつも、おへそが診断・治療の対象に殆ど含まれていないことに多少の不満を感じています。おへそは胎盤と胎児を結んで命を育んだ臍帯の名残ですが、誕生後は命綱の臍帯が形を変え、おへそとして新生児の守護神の働きを担っているからです。
東洋医学はおへそを【神闕】と名付け、慢性消化器疾患である胃アトニーや胃カタル・内臓下垂症を始め、便秘・下痢・食中毒などを治す時、昔から使われてきました。
私は従来より知られている効果の他に、妊婦さんの体調改善や幼児、児童の疾病治療に推奨しています。この治療効果こそが【神闕】の持つ最も優れた主治症である、と今までの臨床体験から確信しています。だからこそ【神闕】への温灸は、妊婦さんにとって心地良く、気持ちもリラックスして眠気すら覚えるのでしょう。
半身浴
入浴時におへその上5センチまでお湯に浸かる入浴法が半身浴です。肩までお湯に浸かる場合と、どれ程の違いがあるかは頭で理解するものではなく、実践して体で感じることが重要です。
先程も述べた様に、妊娠中は特に冷えに対して充分な配慮が必要です。現代は夏になれば日常生活にクーラーが欠かせない時代ですから尚更のことです。
妊娠中は特に下半身が芯まで暖まるように、ゆっくりと時間を掛けて半身浴をすることが大切です。
その時のお湯の温度は、39度前後の微温湯にて15分入り、以後、温度を徐々に上げていき、20分して半身浴を終わる時には42度程度になるようにします。上肢も浸けず、ゆったりとした気持でするように心掛けるとより効果的です。
自然良能の力は、まだまだ解明されたとは言えませんから、腰湯に限らず先人達が残してくれた英知は、どの方法であっても頭で考えるだけではなく実際に試みて体で感じることが大切です。
もぐさカイロを腰に当てる
東洋医学の古典に記されている治療法からヒントを得て、漢方薬の温薬をモグサに包み込んで私が創作したカイロです。
このカイロは冷え症・腰痛・生理痛・生理不順・便秘などに現代人の常識からは想像できない不思議な薬理効果があり、切迫流産の防止にも素晴らしい効果が期待できるからです。
妊娠初期は流産し易い時期ですから、体に優しい刺激であることが最優先の条件であり、『もぐさカイロ』は最適です。妊婦さんの腰に当てておくと実に柔らかな優しい暖かさの刺激ですが、その作用は腰部を保温し、腎の働きを強め、血行を促して冷えを改善するのです。
切迫流産を回避しての初産
結婚して10ヶ月、妊娠の兆しがあったので産婦人科を受診。懐妊が確認されたが『流産する可能性が高い。』と言われたと来院。
おへそ(神闕)に温灸。7分程経過した頃、『スースー』と心地良さそうな寝息が聞こえ出し、20分経過後に治療が終了したことを告げると目を覚ました。受療感を訊ねると『お腹が暖まってきてとても気持ちが良かった。その暖かさが次第にグルッと帯状に腰まできて眠ってしまった。』と。
その後は腹帯を締める迄に5回おへそに温灸を施した。
同時に半身浴の実践ともぐさカイロの腰部への装着を指示し、16週目に腹帯を締められてからは、【三陰交】のお灸を出産当日まで続けられ、女児を安産された。
3回の流産を繰り返した後の初産
結婚式の披露宴の席で同席となったご夫妻と団欒中、娘さんの話題になり、『結婚して10年目、現在妊娠4ヶ月ですが過去に3度も流産を繰り返しているので心配しています。』 と、嫁がれた娘さんの体を案じられている気持ちが察しられた。私は鍼灸医療に従事していることを話してから次のように尋ねた。
『私が推測するには、娘さんはお父さんに似た体質で歯が丈夫でないと思います。それに冷え性もあるはずです。』 と話すと、『その通りです。』と答えられた。
そこで私は『東洋医学でいう“腎虚症”の状態だと察せられますので、毎日半身浴を実行されて下半身を充分に温める必要があります。
そして、体を冷やす作用が強い果物や生野菜を出来る限り控えることが大事です。妊娠中に胎児が最も嫌う環境は、心理面を除けば下半身が冷える状況です。その点を留意されることが大切です。そして5ヶ月になり腹帯を締める日からお灸を始められたら、きっと安産で元気な赤ちゃんが誕生されますよ。』 と自信をもって説明した。
幸いにもつわりはかるく、初めて腹帯をされた5ヶ月になって来院され、出産当日までお灸を続けられた。
お産はすこぶる安産で元気な男の子が産声を挙げられた。そして、お産が一段落したときに、安産を証明するかのように第2子を希望されたということです。